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仙台高等裁判所秋田支部 昭和42年(ネ)113号 判決 1968年10月21日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴会社の昭和四〇年一二月二九日の臨時株主総会における会社解散、監査役及び法定清算人選任の各決議が無効であることを確認する。かりに右請求が理由がないときは、上記各決議を取り消す。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴会社の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠の関係は、次に記載する事項のほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

(控訴代理人の主張)

一、主位的請求について

株主総会の招集手続又は決議方法に関する瑕疵であつても、その瑕疵が著しい場合には、決議内容それ自体の違法を招来するものと解すべきところ、本件総会の決議は、法定の招集期間の不足を承知のうえで、しかも年末多忙の時期に、気候的にも障害があり、事実上多数の株主の出席が不可能であることを見越して、会社解散という株主の最大関心事についていわば株主不在の虚をついてなされたものであるから、右決議は公序良俗に反し、内容的にも違法というべきである。

二、予備的請求について

(一)  原判決が認定した昭和四〇年一二月一五日の取締役会の決議は、その開催通知書(甲第一号証)によつて明らかなように、第七回定時株主総会の開催に関するものであり、本件臨時株主総会の開催については取締役会の決議が存在しない。

(二)  本件総会がいわば株主不在の時期を見計つて開催されたことは前記のとおりであるから、右総会における決議はこの点で著しく不公正なものというべきである。

(三)  総会招集の手続又はその決議の方法に瑕疵が存する以上、改めてその手続又は方法をやりなおしても同一の結果に達するであろうということだけで、右決議の取消請求を棄却することは許されない。けだし、そのような結果の推測はなんらの確証にもとづかないばかりでなく、もしそれを許すならば、およそ一定の予測可能な範囲内の決議事項については適法な総会の開催手続を経ないでも常にその決議は有効であることに帰し、かくては一般株主の保護はなんら顧みられず、少数株主の意思は総会に反映されない結果となるばかりか、法の定める最少限度の手続的保障が有名無実化し、商法のこれに関する全規定は全く無意味なものとなる。

(被控訴代理人の主張)

被控訴会社の発行済株式総数は二一〇、二〇〇株であるから、総会において解散を決議するための定足数は過半数の一〇五、一〇〇株以上あれば足りるところ、本件総会への出席株主総数及び持株総数は、本人出席一六名六六、二二〇株、委任状出席二五名四三、二三〇株、以上合計四一名一〇九、四五〇株であるから、定足数を充たしていることは明らかであり、かりに出席株主のうち渡辺時治、宮田清三郎、畠山元太郎、渡辺小太郎の四名(その特殊総数二、七〇〇株)が決議前に途中退場したとしても、なお一〇六、七五〇株の株主が出席したことになり、定足数に欠けるところはない。もつとも、本件総会議事録(乙第三号証)には、出席株主持株総数一〇九、八六〇株、うち委任状出席者持株四三、六三〇株と記載されているが、これは委任状出席株主尾形勇蔵の持株四〇〇株を誤つて二重に計算したうえ、加算の際に一〇株多く誤算したためであつて、実際より四一〇株多く記載されている。

(証拠関係)(省略)

理由

(主位的請求について)

当裁判所も、次に附加するほか原判決と同一の理由により控訴人の主位的請求を失当と判断するので、右原判決当該理由をここに引用する。

控訴代理人は、本件総会が多数の株主の出席不能な時期に株主不在の虚をついてなされたものであるから、その決議は公序良俗に違反し、内容的にも違法である旨主張するが、実質的に観察し、全証拠を検討しても、いまだ本件決議が公序良俗に反するものとは認め難く、従つて本件決議に不存在をも含めて無効ならしめる瑕疵があつたものとは認めがたいから、右主張は採用することができない。

(予備的請求について)

一、控訴人らが被控訴会社の株主であること並びに昭和四〇年一二月二九日午前一〇時頃から秋田県南秋田郡五城目町の五城目信用金庫会議室において開催された被控訴会社の臨時株主総会において本件決議がなされたことは当事者間に争いがない。そこで、右総会の招集手続又は決議方法に控訴人ら主張のごとき瑕疵があつたかどうかにつき判断する。

(一)  総会招集につき取締役会の決議がないとの主張について

この点に関する当裁判所の判断は、原判決と同じく、本件総会は有効な取締役会の決議にもとづかないで招集された違法があると認めるものであり、その理由は、左記(1)(2)のとおり附加訂正するほか原判決理由(二)(1)の説示するところと同一であるから、これを引用する。

(1) 認定に用いる証拠として、成立に争いのない甲第七号証、当審証人渡辺時治(一部)、同石井清、同伊藤卓治の各証言を附加し、かつ、認定に反する当審証人渡辺時治の証言の一部は信用できない。

(2) 原判決九枚目裏一二行目の「証拠はない。」の次に、「もつとも、成立に争いのない甲第一号証によれば、同年一二月一一日付で各取締役に発せられた右取締役会の招集通知書には、決算書の承認、役員改選のほか、第七回定時総会の開催に関することのみが案件として記載されているけれども、原審及び当審証人渡辺時治、当審証人石井清、同伊藤卓治の各証言及び原審における被控訴代表者本人尋問の結果を綜合すると、右取締役会においては、一応前記案件を議題とはしたものの、後記のごとき会社の現況から結局解散のための臨時総会を開催することの決議が行われたことが認められるから、右甲第一号証をもつて前記認定を覆えすには足りず、また、本件総会の招集を決議した取締役会が同年一二月一四日に開催された旨の被控訴人の主張にそう乙第二、第五号証は、本件総会の通知を法定期間をおいて行つたかのように作為するために取締役会の開催日を一日遡らせて作成したものであることが当審証人伊藤卓治の証言によつて明らかであるから、これまたなんら前記認定を妨げるものではない。」との理由を附加する。

(二)  総会の招集期間が不足であるとの主張について

商法第二三二条第一項の規定によれば、昭和四〇年一二月二九日に総会を招集する場合には、それより二週間前である同月一四日までに各株主に対して招集通知を発しなければならないところ、原審及び当審証人渡辺時治、当審証人石井清の各証言及び原審における被控訴会社代表者本人尋問の結果によれば、本件総会の招集通知は前記取締役会の翌日である同月一六日に各株主に対して発送されたことが認められ、これにそわない原審証人新谷国太郎の証言及び原審における控訴人西村義雄の本人尋問の結果はたやすく採用しがたい。してみると、本件総会の招集手続は、その招集期間が法定期間より二日不足する点においても瑕疵があつたといわなければならない。

(三)  その他の手続的瑕疵の主張について

控訴人らは、以上のほかに、(イ)本件決議が定足数を欠くこと、(ロ)招集通知における議案の記載が不備であること、(ハ)総会の招集時期が著しく不公正であることをも主張するが、これに対する判断は、左記(1)ないし(3)のとおり附加訂正するほか原判決理由二(二)(3)ないし(5)と同様であるから、これを引用する。

(1) 原判決理由二(二)(3)につき認定に用いる証拠として当審証人石井清の証言により成立の真正を認めうる乙第一〇、一一号証、当審証人渡辺時治、同石井清、同伊藤卓治の各証言を附加する。

(2) 原判決一一枚目裏一三行目の「一〇九、八六〇株」とあるのを「一〇九、四五〇株」と、同一二枚目表一行目の「四三、六三〇株」とあるのを「四三、二三〇株」と、同一三行目の「一〇七、二六〇株」とあるのを「一〇六、七五〇株」と訂正する(前掲乙第一〇、一一号証、当審証人石井清の証言によれば、乙第三号証記載の総会出席株主持株総数には誤算のあることが明らかである)。

(3) 原判決一三枚目裏九行目から同一二行目までの説示を次のとおり改める。

かかる時期に招集期間の不足をあえてしながら「会社解散」という重大案件を審議すべき株主総会を招集したことが妥当を欠くものであることは争えないが、他方、当審証人伊藤卓治の証言及び原審における被控訴会社代表者本人尋問の結果によれば、被控訴会社において右の時期に総会を開催したのは、後記のような事情から会社を解散せざるをえなくなつたので、解散というようなよくないことを新年まで持ち越したくないという気持と、招集期間をあまり短縮するわけにもいかない関係上、一二月三〇、三一日の両日を除けば同月二九日よりほかに日がなかつたためであつて、他になんらか不当不正な目的で殊更に多くの株主の出席不能な時期を選んで総会を開催したものではないことが認められるのであるから、これらの事情を勘案すると、右総会の開催時期が年末であつたことをもつて、本件株主総会招集の手続が著しく公正を欠いたものというにはあたらない。

二、以上のとおり本件総会の招集手続には、有効な取締役会の決議がなかつたこと並びにその招集期間が不足であつたことの二点において違法がある。そこで、本件決議が右違法を原因として取り消されるべきであるかどうかについて検討する。

思うに、総会招集の手続又はその決議の方法に違法がある場合でも、総会の議事の経過その他から判断して、右違法が決議の結果に影響を及ぼさないことが明らかであるときは、裁判所は右決議取消しの請求を棄却することができると解するのが相当である。

これを本件についてみると、被控訴会社が昭和三四年一〇月二二日資本金五、〇〇〇万円をもつて設立されたものであることは当事者間に争いがなく、当審証人石井清、同伊藤卓治の各証言及び原審における被控訴会社代表者本人尋問の結果により成立の真正を認めうる乙第三号証、第四号証の一ないし七、第七号証、前掲同第一〇、一一号証、原審証人新谷国太郎、原審及び当審証人渡辺時治、当審証人石井清、同伊藤卓治の各証言、原審における被控訴会社代表者本人尋問の結果に弁論の全趣旨を綜合すると、原判決一四枚目裏四行目から一五枚目裏二行目までに記載するとおりの事実並びにこのようにして被控訴会社はその経営能力を全く失い解散が必至とみられるに至つたのであるが、各株主も昭和三九年度までの毎年の決算報告により会社が解散を避けがたい状態に立ち至つたことを了知していたものであり(設立以来一度も株式配当がなかつたことは当事者間に争いがない)、本件総会においては、前記途中退席者を除く出席者(控訴人西村義雄を含む)の全員一致で本件解散等の決議がなされたこと、この総会の招集を決定した前記取締役会に欠席した三浦盛典、〓兵吉、広嶋忠比古の三名の取締役は、右総会の招集について異存があつたわけではなく、本件総会における決議にも加つていること(但し三浦、〓は委任状出席)、その後本件決議の効力を争う株主は控訴人両名だけであり、ほかに渡辺時治もこれに同調的態度を示しているが、右渡辺自身も、解散がやむをえないことは認めており、ただ会社の経理内容等をもつと詳細に株主に説明したうえでなければ不明朗であるというのであり、右三名の持株数は控訴人西村が一、五〇〇株、控訴人三橋が一〇〇株、渡辺が二、〇〇〇株であることがそれぞれ認められ、前掲証人渡辺時治の証言中右認定にそわない部分は採用しがたく、他にこれを左右するに足りる証拠はない。以上の事実によれば、本件総会の招集につき取締役会の決議が定足数を欠いたとはいえ、これに欠席した取締役中実質的に右解散総会の開催に賛成であつた前記三浦盛典外二名の取締役を加えると、有効な取締役会の決議を得られることは明らかであつて(取締役総数七名中五名の賛成があることになる)、これにもとづき総会を開催した場合に決議の結果に異動を生ずるような事情があつたものは認められず、また、総会の招集期間が不足した瑕疵も、その程度、態様よりみて、たとえ法定期間をおいて招集したとしても、決議の結果を左右したとまではとうてい認めがたい。したがつて、本件総会招集の手続に関する瑕疵はいずれも本件決議の結果に影響を及ぼさないことが明らかな場合にあたるというべきであり、この瑕疵を原因として右決議の取消しを求める控訴人らの本件請求は結局において棄却を免れない。

(結論)

以上のとおり控訴人らの本件請求はいずれも失当であるから、これを棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。よつて、民事訴訟法第三八四条により本件控訴を棄却すべく、控訴費用の負担につき同法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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